YouTubeよりニコニコ動画のほうが音質が良いというのは本当なのか
- 2022.06.09
- エンコード
ASMRの問題で「YouTubeよりニコニコ動画のほうが音質が良い」という噂がまた出てきたので検証してみました。
そもそもコーデックが違う
ニコニコ動画とYoutubeではコーデックといわれる圧縮方式が異なります。
正確にはYoutubeにもAACというニコニコ動画と同じコーデックが準備されていますが、テレビやiPhoneなど一部のデバイスでのみ使われておりAndroidスマートフォンやパソコンで見る場合はOpusというコーデックがメインで使われます。
コーデックが違うというのは圧縮率や圧縮するときのデータの捨て方も異なりビットレートのみで比べるというのは不可能です。
基準の違う数値を見比べたところで何にもなりません。
実際にOpusはビットレートが低いときにAACよりも音質が良くなる傾向があると言われています。
周波数スペクトルを見てみる
HDMIキャプチャしたデレステのMV動画をそれぞれの動画サイトに投げ、エンコードのかかった音源を落としてみます。
このときYouTubeにはAVC+FLACのMKVで投げてみました。
ニコニコ動画ではFLACを受け付けると音声のビットレートが64kbpsのモード(いわゆるエコノミーモード)でエンコードされてしまうようで、仕方なくAVC+PCMをMKVに詰めて投げ直したものを利用しました。
音質の良いニコニコ動画として本気で売るならFLACくらいはまともに食べれるようにしては?
それぞれOpus、MP4として落として音声ファイルをWAVE(16bit PCM)に変換した上でAudacityでスペクトルデータの書き出しを行いました。
データをGoogleドキュメントで折れ線グラフの形式にしたのが以下のものです。
うーん…。
全体的に16.5kHzくらいまでは大きなばらつきもなくきれいになぞれていると思います。
その先で少しばらつきが見られます。
YouTubeは20kHzでハイカットがかかるのが大きな特徴ですが、CD音源でもレコード会社によってはここらへんの周波数はカットされるかと思いますので大きな問題点ではないかなと思います。
それよりイコライザーがかかっているのか、エンコーダーの癖なのか高音側でオリジナル音源より謎の増幅が見られるところのほうが謎です。
ニコニコは20kHz以降もハイカットがかからず伸びていますが21kHzくらいになるとオリジナルからの音量の落ち込みが結構露骨に出ています。
特性にばらつきがあるとはいえ、可聴域では大きなデータの抜け落ちがないのでどちらのサイトも同じファイルを投げ込んだときは差異がわかるほどではないと思います。
生放送では
YouTube LiveでOpusが生えてくることはあまり見ないので生放送だけで言うと同じコーデックになりビットレートの高いニコ生のほうが強いです。
ただしアーカイブになるとYouTubeはOpusに変換がかかるのでまた音質が変わってきます。
結局
投稿者側のファイルの違いがなければ、視聴者側でわかるような音質の差はないと思います。
2時間ほど何回も聞き比べましたが少なくとも私には違いがよくわかりませんでした。
昔のニコニコ動画は音声ビットレートモリモリにできましたが、再エンコードがはじまってからは意味がありません。
その頃の名残でニコニコ動画は音質がいいという話が残っているだけかなと思います。
というかプレミアム会員でなければエコノミーのYouTube以下の音質に簡単になってしまうのでYouTubeのほうが優位という可能性もあります。
ちなみにニコニコ動画にアップロードされていたランキング1位のASMR動画では18kHz付近でハイカットがかかっているような感じの周波数スペクトルをしていました。
(追記)iPhoneではYouTubeの音質が悪くなる
2022/06/20追記です。
YouTubeよりニコニコ動画のほうが音質が良いという人があまりにも多い理由がずっとわからなかったのですが答えらしき部分を見つけました。
それは、「iPhoneはどうやらYouTubeのOpusがデコードできない」ということ。
そりゃAACで再生すれば圧倒的ビットレート差でニコニコ動画のほうが音質がいいってなりますわな…。
というわけで実機のアプリ版で統計情報を表示し音声コーデックを見てみます。
まずはAndroid機のGalaxy S21でYouTube動画を再生します。
こちらはAudio formatがopusとなっており、Opusのデータを再生していることがわかります。
続いてiPhone SE2で同じ動画を再生してみます。
Audioのcodecsがmp4aになっており、AACで再生されています。
iPhoneでは音声AAC 128kbpsになっているので、Androidスマートフォンよりも音質が悪いということがわかりました。
統計情報を見てみるとiPhoneの場合はYouTubeよりニコニコ動画のほうが音質が良いはずです。
しかも比較したときに耳でわかるくらいに。
音質良くYouTubeを見たければAndroidスマートフォンやパソコンを使ってください。
今どきのスマートフォンでOpusがデコードできないとは考えてもいなかった私の想像力不足でした。
5chのほうでiPhoneのアプリ版では統計情報が表示できないとレスがありましたが、表示できます。
小ネタ
ラウドネスノーマライゼーションについて
ラウドネスノーマライゼーションはプレーヤー側のボリュームの調整幅を制限しているだけで、サーバーに保管されている音声ファイルは元の音量のままです。
エンコード時にラウドネス調整は入らないです。
なので、視聴者がボリュームバーをいじるのと同じになります。
このため、ラウドネスノーマライゼーションが作る音質への影響はほぼないと思います。
元の音量が欲しければオーディオデバイスのマスターボリュームをちょっと上げてあげればいいだけですし。
ハイカットについて
YouTubeではハイカット(ローパスフィルター)がかけられています。
ハイカットをかけることで聞こえない部分に使われていたビットレートを可聴域に多く割くことができるというメリットもあります。
聞こえない部分にビットレートを使うよりは聞こえる部分のデータ量を増やしたほうが体感としては音質が改善されたと感じられると思います。
実際のところ、どちらの動画サイトで動画を見ても高音が足りないなあとは思わないかなと。
ビットレートを見てみる
ビットレートはニコニコ192kbps・YouTube128kbpsと言われていますが可変ビットレートです。
実際はノンモンでビットレートが極端に減り本編部分で使うビットレートが稼げるなど動画の内容によって大きく異なります。
無音部で4kbps程度まで下がるので無音部分をいっぱい作ると幸せになれるのではないでしょうか。限度はありそうですけど。
ニコニコはピークで220~256kbps程度、YouTubeはピークで160kbps程度まで上がります。
ギガがなんだのと言われる時代に128kbpsで192kbpsといい勝負をしているだけですごいと思うけどなあ…。
デバイスごとのコーデック選択
ニコニコはどんなデバイスでもAACで再生しますが(というかそれしかファイルがない)、YouTubeはデバイスによって使用する音声コーデックが変わってきます。
AACしか対応していない家電(ケーブルテレビのSTBだったりブルーレイレコーダーだったり2K時代のテレビだったり)でYouTubeを見るとAACで音声が降ってきます。
こちらは統計情報で確認できるので確認してみてください。
YouTubeを見るときはAndroidスマートフォンやパソコン、Opusに対応している最近のテレビなどで見ることをオススメします。
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